七娘といふ看護婦は、主としてこの方面の研究の助手および恐らくは実験台をも勤めてゐるらしかつた。けだし僕は二人が研究室にこもつて、二人きりで例の白熱光幕に包まれるのを屡々《しばしば》見かけたからである。
さういふ時、博士はよく「阿耶《アヤ》、阿耶《アヤ》」といふ絶叫を漏《も》らした。僕はそれを、博士が感きはまつて口にする彼女の愛称かと思つたものである。それとも、それはQ語の単なる感嘆詞だつたかも知れない。僕はひそかに嫉妬《しっと》を感じた。阿耶は楚々《そそ》たる美しい娘であつた。淡青色のガラス服を透して見えるその胸には、みづみづしいつぶらな乳頭がぴんと張つてゐた。それはまだ些《いささ》かも退化の兆候を示してゐなかつた。僕はそれを見るたびに、何かほつとするのだつた。
僕はすでに外出を許されてゐた。嫉妬を紛らすため、僕はよく外出した。中央公園の素晴らしさについては、既に僕の送つたテレヴィで御承知のことと思ふ。やがて十二月に入らうといふこの氷海の孤島の公園は、ありとあらゆる熱帯|蘭《らん》の花ざかりである。その間に点々と、竜眼《りゅうがん》やマンゴーなどの果樹が、白や黄いろの花を噴水のやう
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