、早くぐっとおやりな!」
わたしは忽ち、その壜を空っぽにしてしまいました。とても厭な味だったが、でもそれがないと眠れなかったのです。その次の晩もやっぱり飲んで……それがとうとう習い性になって……今じゃもうそれがないと寝つけないのですよ。そこでこうして小っちゃな水筒を手に入れて、お酒をちょいちょい買ってくるんですよ。……でも坊っちゃんはいい子だから、ママさんに言いつけなんかしませんわね。しもじもの者に、煮湯を呑ませるもんじゃありませんよ。しもじもの者は目にかけてやらなければいけませんよ。だってしもじもの者は、みんな受難者なんですものねえ。今日もこれから帰りしなに、わたしはあの居酒屋の角のところで、小窓をトントンと叩くんですよ。……まさか自分であの店へはいるわけには行きませんからね。この空っぽの水筒を窓から入れてやって、また一杯にしてもらうのですよ。」
子供ごころにも乳母の気持が身にしみて、わたしはどんなことがあっても決してその『水筒』のことは口外しないと、かたく約束した。
「ありがとうよ、坊っちゃん、――言いつけないで下さいね。ばあやはこれがないと、生きて行けないのですからね。」
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