よ。」
「でも、ばあやさんは、その人のお葬いに行ったの、行かなかったの?」
と聞くと、
「行きましたとも。みんなして行ったのですよ。伯爵がね、芝居者をのこらず連れて行って、うちの者のなかからそんな立派な奴の出たことを、よく見させて置けと下知したのですからね。」
「それで、お別れができたわけなの?」
「できましたともさ! みんなお棺のそばへ行って、お別れをしたのですよ。そしてわたしは……そう、あの人はすっかり面変りがして、これがあの人かとびっくりするほどでした。痩せこけて、まっ蒼な顔をして――無理はありません、血がすっかり出尽してしまったのですもの。何しろあの人が刺し殺されたのは、ちょうど真夜中のことでしたからねえ。……一たいどれほどの血をあの人は流したことやら……」
そこで乳母は口をつぐんで、考えこんでしまった。
「で、ばあやさんは」と、わたしが聞く、――「それからどうしたの?」
乳母はハッとわれに返ったらしく、片手で額を一撫でして、「初めのうちは、さっぱり覚えがないのですよ、――どうして家まで帰ったものかがね、……まあみんなと一緒でしたから、――きっと誰かが肩をすけてくれたので
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