って、そして……一しずく、ほんの一しずく、あの人の後生のため供養することだけなのですもの。……

      ※[#ローマ数字19、198−13]

 そこでリュボーフィ・オニーシモヴナは言葉を切ると、これで自分の話も大団円まで漕ぎつけたと思ったのだろう、ポケットから小さな壜をとり出して、「供養」だか「一ぱい」だかをちびりちびりやったが、わたしは追っかけてこう尋ねた、――
「けれど、その名高いカモジの美術家をここへ葬ったのは、一たい誰だったの?」
「県知事さんですよ、坊っちゃん。ほかならぬ県知事さんが、自身でお葬いに来たんですよ。当り前ですとも! 士官さんですものね、――おミサの時も、補祭さんや神父さんは『貴族』アルカージイと呼び上げなすったし、やがてお棺を吊りおろす時には、兵隊が鉄砲を空へ向けてカラ弾を打ったものですよ。またその旅籠屋の亭主には、やがて一年ほどしてから、お仕置き役人がイリインカの広場で鞭打ちの刑を執行しました。その男はアルカージイ・イリイーチを殺《あや》めた報いで四十三の鞭を受けましたが、とうとう堪えとおして――生きていたので、焼印をおされて懲役にやられましたよ。お屋
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