んだい、何を珍らしそうに話し合っているんだい?」
 と聞きますと、
「あれはなあ」という返事です、――「プシカーリ村でな、旅籠屋の亭主が真夜中ぐっすり寝こんでる士官を刺し殺したとかいうんで、それを見物に行くのさ。刺すも刺したり、喉笛ま一文字に切ってのけてな、大枚五百両という金をふんだくったとよ。もう捕《つら》まったが、総身にべっとり返り血を浴びてな、金もちゃんと持っていたそうだよ。」
 その話を聞くなり、わたしはへたへたと腰が抜けてしまいました。
 まったくその通りだったのです。その亭主はアルカージイ・イリイーチを刺し殺したのでした。……そしてあの人は、それこの、ほかでもない今わたしたちの腰掛けているこのお墓の中に、葬られたのですよ。……ええ、そうですとも。あの人は未だにわたしたちの下に、この塚の下に寝ているのですよ。……坊っちゃんはさぞかし、わたしが散歩といえば必らずここへ来るのを、不思議に思いなすったでしょうね。……わたしは二度とふたたび、あすこを(と、陰気な灰色をした廃墟をゆびさして――)この眼で見たいとは思いません。ただ残る望みといえばもう、ここでこうしてあの人のそばに一とき坐
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