かくみんなもうこのうえ一刻も、没義道な主人の乱行が我慢ならなくなったのです。とはいえわたしは、まだ一滴の酒も飲み習わず、ドロシーダ小母さんのため色んな用事をいそいそと勤めたものでした。仔牛たちがまるでわが子のような気がしたのです。仔牛たちにすっかり情が移ってしまって、その中のどれかが肉が乗りきって、食卓にのぼせられるため屠殺場へ曳かれて行く時など、思わずその後姿に十字を切って、三日間も泣けて泣けてならないくらいでした。わたしはもう舞台に立てる身ではありませんでした。脚がぐらぐらして、よく歩けなくなっていたからです。以前はわたしの足どりは世にも軽やかなものでしたが、あの日アルカージイが気絶したわたしを寒気の中へ連れ出してからというもの、きっと脚が冷えこんだのでしょう、爪先にすっかり力が失せて、とても踊りどころの段ではありませんでした。結句わたしも、ドロシーダと同じような縞服の女になって行ったのです。そんな鬱陶しいその日その日が、その先どこまで続くものやら見当もつかなかったのですが、そのうち突然、ある日の夕方じぶんの小屋にいた時のことです、――日が沈みかけていましたが、わたしが窓際で紡ぎ車
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