さんは寝てしまいました。
 やがて夜が更けて、みんな寝しずまった頃、ドロシーダ小母さんはこっそり起きあがって、蝋燭もとぼさずに枕もとへ寄って来ました。見るとまたもや例の水筒を一ぱいやってから、またそれを匿すと、小声でわたしに問いかけるのです、――
「気の毒な娘さん、寝てるかい?」
 わたしが、
「起きてますわ」と答えます。
 そこで小母さんが藁床のそばへやって来て、話してくれたところによると、伯爵は一通りの窮命がすむと、アルカージイを呼び寄せて、こう申し渡したのだそうです、――
「本来ならお前は、兼々わしが言っておいた通りの目に逢わねばならんところなのだが、日ごろの寵愛に免じて、今度だけは特に寛大な処置をしてとらせる。わしはお前を、身代金なしで明日《あす》兵隊に出してやる。しかもお前が、れっきとした伯爵でもあり士族でもあるあの弟のやつのピストルに、びくともしなかったあの剛胆さに賞でて、名誉ある前途を開いてやることにしよう。わしとしては、お前が示した天晴れな根性骨より低い地位に、お前をつけたいとは思わんのだ。わしは手紙を書いて、お前をすぐさま戦場へ出すように言ってやろう。それも一兵卒とし
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