ーシモヴナはここで註訳を入れて、半ば崩れ落ちている灰色の塀の一ばん向うの隅の方角を、片手でさし示すのだった。
※[#ローマ数字15、189−10]
彼女が牛小屋なんかに入れられたのは、ひょっとすると気違いみたいなものになったのではあるまいかと疑われたからだった。そんなふうに畜生じみて来た人間は、牛小屋へ入れて試して見ることになっていた。というのは、牛飼いというものは元来が年の入った、物に動じない連中なので、精神病の「鑑定」には打ってつけだとされていたからである。
リュボーフィ・オニーシモヴナが正気に返った小屋を受持っていた縞服の婆さんは、とても親切な女で、ドロシーダという名前だった。
――そのお婆さんは、夕方の身仕舞いをしてしまうとね(と、乳母は物語をつづけた――)、自分で新しいカラス麦の藁でもって、わたしの寝床を作ってくれました。それをまるで羽根ぶとんのように、ふんわり敷いてくれると、こんなことを言いだしたのです。――
「なあ娘さんや、今は何も包みかくさず、あんたに話してあげようね。あんたのことはまああんたのこととしてさ、このわたしだってやっぱりお前さんと同じよ
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