こまかい格子組みになっていて、古い薄手のモスリンが張ってあるので、そのモスリン越しに外が覗けたのです。
ところで年寄りの坊さんは、風向きの悪さに怖気がついたのでしょうか、がくがく総身をふるわしながら家令の前に立って、しきりに十字を切っては早口な頓狂声で、――
「いやはや、どうも皆さん、どうもはや! 分っています、分っていますよ、何を捜しに見えたのかは。ですがな、わしはその、伯爵閣下にたいして、なんの疚《やま》しいところもないですわい。神明に誓って、疚しいことはありませんわい。断じてその、ありませんわい!」
そう言いながら十字を切るたんびに、左肩ごしに指先でもって、わたしの閉じこめられている時計箱をさすのです。
『もう駄目だ』とわたしは、坊さんの奇怪な振舞いを見て観念の眼をとじました。
家令もその合図に気がついて、こう言うのです、――
「わしらはすっかり知ってるのだぞ。早くあの時計の鍵を出すがいい。」
すると坊さんはまた片手を振りながら、――
「いやはや皆さん、どうもはや! お赦しなされ、御免なされ。その鍵をどこへ仕舞ったものやら、とんと失念しましたわい。ほんとにその、失念も失念
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