見えなくなってしまいました。
 アルカージイが言うには、
「心配することはちっともないんだよ、こうなるのが当然なのさ。何しろあの馭者は、とにかく乗せて来てくれはしたものの、こっちも向うを知らず、向うもこっちを知らないんだ。小判三枚でお前さんを運び出すのに一肌ぬいでくれたんだが、自分まで巻き添えになっちゃ堪らないからなあ。さあこれからは、おれたちの運否天賦だ。あすこに見えるのは痩雌鷲《やせめわし》村なんだが、あの村には度胸のすわった坊さんがいて、命がけの婚礼に立会いもすれば、おれたちの仲間を大ぜい世話してくれもしたのだよ。あの坊さんにお賽銭を上げりゃ、夕方までおれたちを匿まってくれて、婚礼もやってくれるだろう。夕方になりゃ、またあの馭者がやって来て、まんまと行方をくらますことができようというものさ。」

      ※[#ローマ数字12、1−13−55]

 わたしたちはその家の戸を叩いて、玄関へあがって行きました。戸をあけてくれたのは当の坊さんで、これはずんぐりした年寄りで、前歯が一本かけていました。その奥さんというお婆さんは、ふうふう火を起してくれました。わたしたちは、この御夫婦の足
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