身にだけは、そんな責苦がふりかからずに済みました。というのは、戸口から一足跳びにわたしの小部屋へ飛び帰るが早いか、あっというまもなくテーブルを振りあげざま、いきなり窓枠いっぱい叩き破ったのですが、それから一体どうなったものか、あとは皆目おぼえがありません。……
なんだか足の方が冷え冷えするので、わたしはだんだん正気づいて来ました。急いで両足を引っこめた時の感じでは、わたしはどうやら狼か熊の毛皮外套にくるまっているらしいのですが、あたりは綾目もわかぬ真の闇、ただトロイカが威勢よく韋駄天ばしりに走っているのがそれと分るばかりで、一体どこへ行くものやら見当がつきません。わたしのそばには二人の男が一かたまりになって、広い橇の中に坐っているのですが、そのうちわたしをしっかり抱えているのがアルカージイ・イリイーチで、もう一人の男は力いっぱい馬に鞭をくれているのでした。……雪ぼこりは馬の蹄の下から渦まきかかって来るし、橇も右へ左へ、今にも引っくり返りそうに傾ぐのです。もしわたしたちが床板にじかに坐っていず、また互いに手を取りあっていなかったら、誰ひとり命はなかったに違いありません。
聞えるのは二
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