「まあいい」と伯爵、――「じゃああんたの言う通りにするさ。殺しも半殺しもしない程々に鞭打って、それから兵隊にやるとしよう。」
「ではそれが」と弟ぎみ、――「ぎりぎり結著のお言葉ですか、兄さん?」
「うん、ぎりぎり結著だ。」
「ただそれだけの仔細なんですね?」
「うん、それだけだ。」
「まあまあ、それで安心しました。さもないとわたしは、あんたにとって現在の弟が、そこらの奴隷一匹より安いのかと、そう思うところでしたよ。ではこうしましょう、あんたは約束を破るまでもない、ただあのアルカーシカを、わたしのむく犬の毛を刈込み[#「むく犬の毛を刈込み」に傍点]におよこし下さい。その先あれが何をするかは、わたしの知ったことですて。」
 伯爵としては、それまで断わるのは気がひけたのでしょうね。
「よかろう」と伯爵が仰しゃいました、――「では、むく犬を刈込みにやるとしよう。」
「いや、それで結構です。」
 弟ぎみはぎゅっと握手をして、馬車を返して行きました。

      ※[#ローマ数字8、1−13−28]

 それはちょうど夕暮れ前で、冬のこととてそろそろたそがれはじめ、召使が灯を入れておりました
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