八九八年末の脱稿で、翌年一月に雑誌『家庭』Semija[#「Semija」は斜体] に発表された。チェーホフの数ある作品の中でも最も愛誦《あいしょう》され、最も人口に膾炙《かいしゃ》した作品であろう。トルストイがこれを四度も続けさまに朗読して、しかも少しも倦《う》まなかったという逸話は余りにも有名である。同じくトルストイはその編著『読書の環』にこの作品を載せて、チェーホフを旧約聖書のバラム(『民数紀略』二十二章以下)になぞらえ、「彼も初めは詛《のろ》うつもりだったが、詩神がそれを制してかえって祝福せしめられたものである」と述べ、このオーリャという可憐《かれん》な映像を、「女性というものが自ら幸福となり、また運命によって結ばれる相手を幸福ならしめんがために到達し得る姿の永遠の典型」としてたたえている。全体にやや民話ふうなやさしい素朴な調子を帯びながらも、ある意味ではまた、当時ロシヤ社会にやかましかった婦人問題に対するチェーホフの静かな抗議とも見られる作品である。
『犬を連れた奥さん』Dama s sobachkoi[#「Dama s sobachkoi」は斜体] は雑誌『ロシヤ思想』Ru
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