『那樣屁理屈《そんなへりくつ》は解《わか》らん。』
と、イワン、デミトリチは小聲《こゞゑ》で云《い》つて、自分《じぶん》の寐臺《ねだい》の上《うへ》に坐《すわ》り込《こ》む。
 モイセイカは今日《けふ》は院長《ゐんちやう》のゐる爲《ため》に、ニキタが遠慮《ゑんりよ》して何《なに》も取返《とりかへ》さぬので、貰《もら》つて來《き》た雜物《ざふもつ》を、自分《じぶん》の寐臺《ねだい》の上《うへ》に洗《あら》ひ浚《ざら》ひ廣《ひろ》げて、一つ/\並《なら》べ初《はじ》める。パンの破片《かけら》、紙屑《かみくづ》、牛《うし》の骨《ほね》など、而《さう》して寒《さむさ》に顫《ふる》へながら、猶太語《エヴレイご》で、早言《はやこと》に歌《うた》ふやうに喋《しやべ》り出《だ》す、大方《おほかた》開店《かいてん》でも爲《し》た氣取《きどり》で何《なに》かを吹聽《ふいちやう》してゐるので有《あ》らう。
『私《わたし》を此處《こゝ》から出《だ》して下《くだ》さい。』と、イワン、デミトリチは聲《こゑ》を顫《ふる》はして云《い》ふ。
『其《そ》れは出來《でき》ません。』
『如何云《どうい》ふ譯《わけ》で。其《
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