》なのに由《よ》るのである。
 アンドレイ、エヒミチが新《あらた》に院長《ゐんちやう》として此町《このまち》に來《き》た時《とき》は、此《こ》の病院《びやうゐん》の亂脈《らんみやく》は名状《めいじやう》すべからざるもので。室内《しつない》と云《い》はず、廊下《らうか》と云《い》はず、庭《には》と云《い》はず、何《なん》とも云《い》はれぬ臭氣《しうき》が鼻《はな》を衝《つ》いて、呼吸《いき》をするさへ苦《くる》しい程《ほど》。病院《びやうゐん》の小使《こづかひ》、看護婦《かんごふ》、其《そ》の子供等抔《こどもらなど》は皆《みな》患者《くわんじや》の病室《びやうしつ》に一|所《しよ》に起臥《きぐわ》して、外科室《げくわしつ》には丹毒《たんどく》が絶《た》えたことは無《な》い。患者等《くわんじやら》は油蟲《あぶらむし》、南京蟲《なんきんむし》、鼠《ねずみ》の族《やから》に責《せ》め立《た》てられて、住《す》んでゐることも出來《でき》ぬと苦情《くじやう》を云《い》ふ。器械《きかい》や、道具《だうぐ》などは何《なに》もなく外科用《げくわよう》の刄物《はもの》が二つある丈《だ》けで體温器《たいをん
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