た》つる初《はじ》めに於《おい》ても、猶《なほ》今日《こんにち》の如《ごと》く別段《べつだん》宗教家《しゆうけうか》らしい所《ところ》は少《すく》なかつた。彼《かれ》の容貌《ようばう》はぎす[#「ぎす」に傍点]/\して、何處《どこ》か百姓染《ひやくしやうじ》みて、頤鬚《あごひげ》から、ベツそりした髮《かみ》、ぎごちない[#「ぎごちない」に傍点]不態《ぶざま》な恰好《かつかう》は、宛然《まるで》大食《たいしよく》の、呑拔《のみぬけ》の、頑固《ぐわんこ》な街道端《かいだうばた》の料理屋《れうりや》なんどの主人《しゆじん》のやうで、素氣無《そつけな》い顏《かほ》には青筋《あをすぢ》が顯《あらは》れ、眼《め》は小《ちひ》さく、鼻《はな》は赤《あか》く、肩幅《かたはゞ》廣《ひろ》く、脊《せい》高《たか》く、手足《てあし》が圖拔《づぬ》けて大《おほ》きい、其手《そのて》で捉《つか》まへられやうものなら呼吸《こきふ》も止《と》まりさうな。其《そ》れでゐて足音《あしおと》は極《ご》く靜《しづか》で、歩《ある》く樣子《やうす》は注意深《ちゆういぶか》い忍足《しのびあし》のやうである。狹《せま》い廊下《ら
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