翌朝《よくあさ》イワン、デミトリチは額《ひたひ》に冷汗《ひやあせ》をびつしより[#「びつしより」に傍点]と掻《か》いて、床《とこ》から吃驚《びつくり》して跳起《はねおき》た。もう今《いま》にも自分《じぶん》が捕縛《ほばく》されると思《おも》はれて。而《さう》して自《みづか》ら又《また》深《ふか》く考《かんが》へた。恁《か》くまでも昨日《きのふ》の奇《く》しき懊惱《なやみ》が自分《じぶん》から離《はな》れぬとして見《み》れば、何《なに》か譯《わけ》があるのである、さなくて此《こ》の忌《いま》はしい考《かんがへ》が這麼《こんな》に執念《しふね》く自分《じぶん》に着纒《つきまと》ふてゐる譯《わけ》は無《な》いと。
『や、巡査《じゆんさ》が徐々《そろ/\》と窓《まど》の傍《そば》を通《とほ》つて行《い》つた、怪《あや》しいぞ、やゝ、又《また》誰《たれ》か二人《ふたり》家《うち》の前《まへ》に立留《たちとゞま》つてゐる、何故《なぜ》默《だま》つてゐるのだらうか?』
 是《これ》よりしてイワン、デミトリチは日夜《にちや》を唯《たゞ》煩悶《はんもん》に明《あか》し續《つゞ》ける、窓《まど》の傍《
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