正面《しやうめん》は本院《ほんゐん》に向《むか》ひ、後方《こうはう》は茫廣《ひろ/″\》とした野良《のら》に臨《のぞ》んで、釘《くぎ》を立《た》てた鼠色《ねずみいろ》の塀《へい》が取繞《とりまは》されてゐる。此《こ》の尖端《せんたん》を上《うへ》に向《む》けてゐる釘《くぎ》と、塀《へい》、さては又《また》此《こ》の別室《べつしつ》、こは露西亞《ロシア》に於《おい》て、たゞ病院《びやうゐん》と、監獄《かんごく》とにのみ見《み》る、儚《はかな》き、哀《あはれ》な、寂《さび》しい建物《たてもの》。
蕁草《いらぐさ》に掩《おほ》はれたる細道《ほそみち》を行《ゆ》けば直《す》ぐ別室《べつしつ》の入口《いりぐち》の戸《と》で、戸《と》を開《ひら》けば玄關《げんくわん》である。壁際《かべぎは》や、暖爐《だんろ》の周邊《まはり》には病院《びやうゐん》のさま/″\の雜具《がらくた》、古寐臺《ふるねだい》、汚《よご》れた病院服《びやうゐんふく》、ぼろ/\の股引下《ヅボンした》、青《あを》い縞《しま》の洗浚《あらひざら》しのシヤツ、破《やぶ》れた古靴《ふるぐつ》と云《い》つたやうな物《もの》が、ごたくさ[
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