ん》とゐられやう、况《ま》して一|年《ねん》、二|年《ねん》など到底《たうてい》辛棒《しんぼう》をされるものでないと思《おも》ひ付《つ》いた。さう思《おも》へば益※[#二の字点、1−2−22]《ます/\》居堪《ゐたま》らず、衝《つ》と立《た》つて隅《すみ》から隅《すみ》へと歩《ある》いて見《み》る。『さうしてから奈何《どう》する、あゝ到底《たうてい》居堪《ゐたゝま》らぬ、這麼風《こんなふう》で一|生《しやう》!』
彼《かれ》はどつかり坐《すわ》つた、横《よこ》になつたが又《また》起直《おきなほ》る。而《さう》して袖《そで》で額《ひたひ》に流《なが》れる冷汗《ひやあせ》を拭《ふ》いたが顏中《かほぢゆう》燒魚《やきざかな》の腥※[#「月+亶」、第3水準1−90−52]《なまぐさ》い臭《にほひ》がして來《き》た。彼《かれ》は又《また》歩《ある》き出《だ》す。『何《なに》かの間違《まちが》ひだらう……話合《はなしあ》つて見《み》にや解《わか》らん、屹度《きつと》誤解《ごかい》が有《あ》るのだ。』
イワン、デミトリチはふと眼《め》を覺《さま》し、脱然《ぐつたり》とした樣子《やうす》で兩《りやう》の拳《こぶし》を頬《ほゝ》に突《つ》く。唾《つば》を吐《は》く。初《はじ》め些《ちよつ》と彼《かれ》には前院長《ぜんゐんちやう》に氣《き》が付《つ》かぬやうで有《あ》つたが施《やが》て其《そ》れと見《み》て、其寐惚顏《そのねぼけがほ》には忽《たちま》ち冷笑《れいせう》が浮《うか》んだので。
『あゝ貴方《あなた》も此《こゝ》へ入《い》れられましたのですか。』と彼《かれ》は嗄《しはが》れた聲《こゑ》で片眼《かため》を細《ほそ》くして云《い》ふた。『いや結構《けつこう》、散々《さん/″\》人《ひと》の血《ち》を恁《か》うして吸《す》つたから、此度《こんど》は御自分《ごじぶん》の吸《す》はれる番《ばん》だ、結構々々《けつこう/\》。』
『何《なに》かの多分《たぶん》間違《まちがひ》です。』とアンドレイ、エヒミチは肩《かた》を縮《ちゞ》めて云《い》ふ。『間違《まちがひ》に相違《さうゐ》ないです。』
イワン、デミトリチは又《また》も床《ゆか》に唾《つば》を吐《は》いて、横《よこ》になり、而《さう》して呟《つぶや》いた。『えゝ、生甲斐《いきがひ》の無《な》い生活《せいくわつ》だ、如何《いか》に
前へ
次へ
全99ページ中89ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
チェーホフ アントン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング