こ小刻みに踊るような運動を演じているところは、まるで鞭を脚へ当てられでもしているような恰好だった。将校の集まっている所までやって来ると、乗馬の男は帽子をちょいとつまみ上げて、次のような口上を述べ立てた。
「当村の地主、陸軍中将、フォン=ラッベク閣下が、将校の方々にお茶を差上げたく、館《やかた》まで即刻お越し下さるようお招きでござります……」
 馬はぴょこりとお辞儀をすると、またもやダンスをはじめて、得意の横歩きでもって後ずさりした。乗馬の使いは、もう一ぺんちょいと帽子をつまみ上げたかと思うと、瞬く間にくだんの一風変った馬もろとも、教会のかげへ姿を消してしまった。
「ちぇっ、なんてこったい!」それぞれの宿舎へ別れて行きながら、怨めしそうに、そんなことを呟く将校もあった。「こっちは睡くて堪らんというのにさ、フォン=ラッベクとやらがお茶をどうぞとおいでなすった! それがどんなお茶だかってことは、こっちじゃ先刻承知なんだ!」
 全六個中隊の将校たちの脳裡には、去年あったことがまざまざと思い出された。それは機動演習の時のことだったが、彼らは或るコサック連隊の将校と一緒に、ちょうど今と同じ筆法で、
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