たので、ちらりと横目で窓の方を見たり、にやりと一人笑いをしてみたり、婦人連の動作を眼で追いはじめたりなどしながら、早くも心機朦朧となって、いやいやこの薔薇やポプラや紫|丁香花《はしどい》の匂いは庭から漂って来るのではない、ほかならぬあの婦人連の顔《かんばせ》や衣裳から発するのだと、そんな風に思いなされるのだった。
ラッベクの息子は、ある痩せほそった娘をさそって、彼女を相手に二まわり踊った。ロブィトコは寄木細工の床《ゆか》のうえを滑るように、藤色の令嬢のところへ急いで行って、彼女と組んでさっとばかり、広間せましと舞い立った。舞踏がはじまったのである。……リャボーヴィチは扉口のそばの踊らない人々の中にまじって、この光景を見守っていた。生れ落ちて彼はついぞ一度も踊ったことがなく、従って、生涯にまだ一度として、深窓の女性の優腰《やさごし》をかい抱くような機会に恵まれなかった。男子が衆人環視のなかで一面識もない少女の腰へ手を※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]したり、相手の片手を休ませるため自分の肩を差出したりする有様を見ると、彼にはそれがひどく好もしいものに思えるのだったが、さりとてその男子の位置にわが身を置いて考えることは、なんとしても出来ない相談だった。一時は彼も同僚たちの勇気機敏な立※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]りぶりを羨しく思って、人しれず胸を傷めたこともある。自分が弱気で、猫背で、ぱっとしない男で、おまけに胴長で、山猫みたいな頬髯まで生えていて――といった意識が彼を深刻に腐り込ませていたものだが、しかし年とともにこの意識にも馴れっこになって、今では踊り※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]ったり声高に談笑したりしている連中を見ても、もはや羨しいなどとは思わず、ただふっともの悲しい感動に誘われるだけのことだった。
やがて四班舞踏《カドリール》がはじまると、フォン=ラッベク第二世は踊らない連中のところへやって来て、二人の将校を球突に誘った。その二人は賛成して、彼と一緒に広間から出て行った。リャボーヴィチは手持ち無沙汰のあまり、せめて恰好だけでもみんなの行動に一枚加わりたいと思って、この連中のあとからふらふらついて行った。広間を出て彼らは客間へ抜け、それからガラスばりの細長い廊下へ出て、そこからある一室へ通ると、彼らの出現とともにぱっと飛び立つ
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