父つあんは死んでしまつた。おゝ、お父つあん。」
ごつん、と頭をぶたれて、はつとバルカは目がさめました。目のまへには、親方が立つてゐます。
「やい、なにをしてやがるんだ。坊やが泣いてゐるぢやねえか。ねむるやつがあるか。」
親方は、またぴしやんとバルカの頬をなぐりつけました。バルカは、またうと/\とゆり籠をゆすぶつて、子守歌をうたひ出します。部屋の中の影はぶる/\とふるへうごいて、バルカにまばたきをしてみせ、すぐに又バルカの頭の中にすべりこんで、まぼろしになりました。――
またどろ/\の、ぬかるみがみえて来ました。袋をしよつた人が、グシヤッところがつて、ぐう/\ねこんでしまひます。あゝ、あんなふうにごろつとねころんだならば。おゝ、ねむい、ねむい、ねむい。
だけど、お母さんがやつて来て、はやく/\とせかせます。バルカは、お母さんと、町へ仕事をさがしにいくのです。
「どうぞ一銭やつて下さい。」
お母さんは、あふ人ごとに言葉をかけます。
「その子をおくれよ。」
だれか知つてゐる人のやうな声がします。
「おい、その子をおくれつたら。」
はッと、バルカはとびおきました。おかみさんがそば
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