「今すぐいくといゝんだが、今夜はもうおそいな。病院ぢやみんなねてるかもしれない。まあいゝだらう。心配するな。おれが今手紙をかいてやるからな。」
「あのう、先生さま。」と、お母さんがこまつたやうにいひました。
「うちにや馬がないんで。」
「馬がない? うん、ぢやあ一頭かしてもらふやうに地主にはなしてやらう。」
 お医者さまはかへります。あかりはけされました。バルカは、又お父つあんの「ぐるゝゝ」をきくばかりです。半時間ほどもたつと戸口に馬車がつきました。こんどのは、お父つあんを病院につれていく馬車です。そしてお父つあんはいつてしまひました。
 夜があけて、はれ/″\とした朝が来ました。お母さんはお父つあんのことがしんぱいなので、病院へいきました。
 と、赤ん坊が泣いてゐます。そのそばで、だれかゞ歌をうたつてゐます。
[#ここから2字下げ]
「ねん/\よう。
ねん/\よう。」
[#ここで字下げ終わり]
 お母さんがかへつて来ました。
「ゆんべはよかつたのに。」とお母さんは、すゝり泣きをしながらつぶやきます。
 バルカは胸が一ぱいになつて、森の中へいつて、ひとりでしく/\泣きました。
「お
前へ 次へ
全10ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
チェーホフ アントン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング