した。
だれか、戸口に馬車をとめました。地主さまのおやしきからよこして下さつたお医者さまです。お医者さまは、家の中へはいつてきました。まつ暗なので姿はみえません。その人がせきをするのと、戸のきしるのだけがきこえます。
「あかりをつけろよ。」
お医者さまがいひます。
「うゝ、ぐるゝゝ。ぐる/\。」とお父つあんが答へます。お母さんがかへつて、マッチをさがしはじめました。
「先生さま、ぢきでごぜえます。ぢきでごぜえます。」
お母さんはかういひながら、ろうそくをともして、おもてへとび出して、先生と一しよにもどつて来ました。
「どんなぐあひだ。」お医者さまは、病人をのぞきこんで聞きました。
「おい、おかみさん、おまいたちは病人をほつぽり出しておいたんだな。」
「へえ、いや、先生さま、もうおむかへが来るんでさあ、どつちみちもう長いことはありません。」
「馬鹿。おれがなほしてやるよ。」
「お願えしやすだ。へえ、どうもありがとうごぜえますだ。でも、どうせ死ななきやあなんねえだら、やつぱり死ななけきやあなりません。」
「これあ病院にいれなけれやあだめだよ。」
お医者さまは、診察をするといひました
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