に立つてにらみつけてゐます。
「おまいはねてゐたんだね。ばか。」
バルカはだまつてつッ立つてゐます。すると、部屋の中が、だん/\水いろにあかるんで来て、ズボンの影も、緑いろのランプの光も灰いろにうすれ、やがて、壁の中へすひこまれるやうに消えてしまひました。夜があけて来たのです。おかみさんは、赤ん坊をうけとつてお乳をのませると、胸のボタンをはめながらいひました。
「まだ泣いてるよ、この子は。魔がさしてるんだよ。」
バルカは、赤ん坊をまたゆり籠に入れて、ゆすぶりはじめます。部屋の中には、もうなんの影もないので、まぼろしがのりうつゝてくることもありません.そのかはり、たゞ、ねむくてたまりません。バルカはねむ気をおひはらはうとして、籠のはしに頭をおしつけて頭で籠をゆすぶります。それでもすぐにまぶたがたるんで、頭がおもくなつて来ます。
「バルカ、ストーブをたきつけろい。」
戸のむかうから、親方がどなりつけます。さあ、いよ/\バルカの仕事がはじまりました。バルカは、まきをとりに、物置へかけだします。それがうれしくてたまりません。かけたりあるいたりしてゐれば、じつとすわつてゐるときよりも、ねむくならないからです。まきをとつて来て火をおこしてゐると、こはばつてゐた顔があたゝかにほぐれ、目もはつきりとさめて来ました。
「バルカ、湯わかしをもつて来てよ。」
おかみさんがどなります。こんなふうに、あとから/\、いろんな命令が出て来るのです。
「バルカ、親方の靴をおみがき。」
バルカは床に膝をついて靴をみがきはじめます。この大きな靴の中に頭をつッこんでぐう/\ねむつたら、どんないゝ気持でせう。かう思ふと、急に親方の靴がふくれあがつて部屋一ぱいにひろがりだしました。はつとして、バルカは靴ブラシをおとしました。けれど、すぐまた頭をふると、きよろきよろとあたりをみまはしました。なんにも大きくなりはしないぢやないかといつた顔つきです。
「バルカ、おもてをおはきよ。」
バルカは、おもてをはくと、もう一つ店のストーブに火をおこして、こんどは台所へかけていきました。台所には、いろんな仕事がバルカをまちかまへてゐます。なかでも、ジャガイモの皮むきがひと仕事です。バルカは目がちら/\して、ナイフをすべりおとしました。すると、両そでをたくしあげた、体のがんじようなおかみさんが、頭がわれるやうにどな
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