たが、――天国に安らわせたまえ――うちの家系のことで、こんなことを言っていたっけ。このシメオーノフ=ピーシチクという古い家柄《いえがら》は、どうやらあのカリグラ皇帝([#ここから割り注]訳注 ローマ三代目の皇帝。暴君で、自分の愛馬に元老院の議席を与えたりした[#ここで割り注終わり])が元老院の議席につけた例の馬から出ているらしい、とさ。……(腰かける)だが、困ったことには、金がない! かつえた犬には肉こそ黄金《こばん》、といってな。……(いびきをかき、すぐまた目を覚ます)わたしもそれさ……金のことしか頭にないのさ……
トロフィーモフ そう言えば、あなたの格好には、実際なにか馬に通ずるところがありますね。
ピーシチク なあに……馬はいい獣だ……だいいち売れるからな……

[#ここから2字下げ]
となりの部屋で、玉突きの音がする。広間のアーチの下に、ワーリャが姿を見せる。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
トロフィーモフ (からかって)マダム・ロパーヒン! マダム・ロパーヒン! ……
ワーリャ (ムッとして)禿《は》げの旦那《だんな》!
トロフィーモ
前へ 次へ
全125ページ中72ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
チェーホフ アントン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング