だ、わたしの一切だ。信じておくれ、わたしを、ほんとだよ……
アーニャ 信じてますわ、伯父さん。みんなあなたが好きで、尊敬しています……でもねえ、伯父さん、あなたは黙ってらっしゃらなけりゃいけないわ、ただじっと黙ってね。今しがたも、わたしのママのことを、なんて言ってらしたの? ご自分の妹じゃありませんか? なんだって、あんなことを仰《おっ》しゃるの?
ガーエフ なるほど、なるほど……(彼女の片手で自分の顔をおおう)まったく、厭《いや》になるよ! いやどうも、情けないこった! おまけに先刻《さっき》は、本棚《ほんだな》の前で演説をした……ばかばかしい! 済んでからやっと、ばかげていることがわかったんだ。
ワーリャ ほんとよ、伯父さん、黙ってらっしゃるに限るわ。黙っていれば、それでいいのよ。
アーニャ 黙ってらっしゃれば、ご自分だって気が休まるわ。
ガーエフ 黙るよ。(アーニャとワーリャの手にキスする)黙るよ。ただ、ちょっと大事な話があるんだ、木曜に地方裁判所へ行ったら、偶然、仲間が寄り合っちまってね、あれやこれやと四方山《よもやま》ばなしが出たなかで、どうやらその、手形で金を借りて、銀行の
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