て眠らずに心配しつづける雌鶏《めんどり》にひきくらべてみるのだった。クーキンはモスクヴァで手間どって、帰るのは復活祭の頃になると書いてよこし、手紙の都度『ティヴォリ』遊園のことで早手まわしに色々と指図をしてよこした。ところが一夜あければ*御受難週の月曜日という晩おそく、とつぜん不吉なノックの音が門口でした。誰かしら木戸を、まるで樽《たる》でもたたくように、ブーム! ブーム! ブーム! と叩いたのだった。寝ぼけ眼《まなこ》の炊事女が、はだしで水たまりをぱちゃぱちゃいわせながら、木戸をあけに駈《か》けだした。
「開けてください、まことにお手数さま!」と誰かが門の外で、陰《いん》にこもった低音《バス》で言うのだった。「電報ですよ!」
オーレンカは前にも良人から電報をもらったことは何べんかあったけれど、今度はどういうわけかはっと気が遠くなってしまった。ぶるぶる顫《ふる》える手で彼女は電報の封を切って、次のような文面を読んだ。
『イヴァン・ペトローヴィチ キョウ キュウセイ、ヌ[#「ヌ」に傍点]グ サシズマツ、ツ[#「ツ」に傍点]ウシキ カヨウビ』
とこんなぐあいにその電報には『ツウシキ』だ
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