。芝居なんぞどこがいいんでしょうねえ?」
土曜日になるとプストヴァーロフと彼女はきまって夜祷式に行き、祭日には朝の弥撤《ミサ》に行った。教会の帰り途《みち》はいつも仲よく肩を並べて、しんみりと感動した面もちで、二人ともいい匂いをぷんぷんさせながら歩いて来ると、彼女の絹の衣裳がさらさらと快い音を立てるのだった。さてわが家へ帰るとお茶になって、味つきパンや色んなジャムが出たあとで、仲よく|肉まん《ピローグ》に舌つづみをうつ。毎日お午《ひる》になると、中庭はもとより門のそとの往来へまで、|甜菜スープ《ボルシチ》だの羊や鴨の焼肉だののおいしそうな匂いが漂い、それが精進日だと魚料理の匂いにかわって、門前に差しかかる人は、食欲をそそられずに行き過ぎるわけにはいかなかった。事務所の方にはいつもサモヴァルがしゅんしゅんいっていて、お得意は輪形のパンでお茶の饗応にあずかった。一週間に一度、夫婦は風呂屋へ行って、帰り途は仲よく肩をならべて、二人とも真っ赤に顔を上気させていた。
「おかげさまで、結構な暮しをしておりますわ」とオーレンカは知合いの人たちに言い言いした。「有難いことですわ。どうか世間の皆さまに
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