ァの悲劇の見得のことまで一ぺんに思い出して、町じゅう切っての才子才媛がこんなに無能だとすると、この町というのは一体どんな代物《しろもの》なんだろうと考えた。
 それから三日するとパーヴァがエカテリーナ・イヴァーノヴナの手紙を持ってきた。
『あなたはちっともお見えになりませんのね。なぜですの?』と彼女は書いていた。『もうわたくしどもをお見かぎりではないのかと案じております。本当に心配で、それを考えただけでもこわくなります。どうぞわたくしを安心させて下さいまし。おいでになって、一言《ひとこと》そんなことがあるものかと仰しゃってくださいまし。
 ぜひちょっとお話し申し上げたいことがありますの。あなたのE・T・』
 彼はこの手紙を読みおえると、ちょっと考えてからパーヴァに言った。――
「なあ君、今日は伺えませんと申し上げてくれ、とても忙しいからって。伺うにしても、そうさな、三日ほどあとになりましょうってな」
 しかし三日たち一週間たったが、彼は依然として行かなかった。ある日などはちょうどトゥールキン家の前を通りかかって、せめて一分間でも寄らなくちゃ悪いなと思い浮かんだが、ちょっと小首をひねって
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