の。わたくし本当にわくわくしながら今日のおいでをお待ちしておりましたのよ。後生ですわ、お庭へ参りましょうよ」
 二人は庭へおりて、四年前と同じように、あの楓《かえで》の老樹の下にあるベンチに腰をかけた。暗い晩だった。
「ねえ、いかがお暮しですの?」とエカテリーナ・イヴァーノヴナがきいた。
「相変らずですな、まあどうにかやっていますよ」とスタールツェフは答えた。
 それ以上のことは何一つ考え出せなかった。二人はしばらく無言だった。
「わたくし何だか落ち着かないで」とエカテリーナ・イヴァーノヴナは言って、両手で顔をかくした。「でもどうぞお気になさらないでね。家に帰ってみると本当によくって、みなさまにお会いできるのが本当にうれしくって、まだしっくり慣れきれませんの。いろんな思い出がありますわねえ! わたくしこんな気がしていましたの、あなたと二人でさぞのべつ幕なしに、夜が明けるまでおしゃべりをすることでしょうって」
 いま彼にはちかぢかと彼女の顔やきららかな眼が見えるのだったが、こうして暗がりの中にいると、彼女は部屋の中にいるときよりも若々しく見え、それのみか以前の子ども子どもした表情がもとに
前へ 次へ
全49ページ中38ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
チェーホフ アントン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング