た二度で、それも相変らず偏頭痛の療治をしているヴェーラ・イオーシフォヴナの招きがあったからであった。毎とし夏になるとエカテリーナ・イヴァーノヴナは両親のところへ帰省したけれど、彼は一度も会わずにしまった。なんとはなしに機会がなかったのである。
ところがそうして四年たってからだった。ある静かな暖かな朝のこと、病院へ一通の手紙がとどけられた。ヴェーラ・イオーシフォヴナからドミートリイ・イオーヌィチに宛てたもので、近頃はさっぱりお見えにならないので淋しくてならない、ぜひお越しくだすってわたくしの悩みを和らげて下さいまし、なおちょうど今日はわたくしの誕生日にも当たりますので、という文面だった。その下の方には追って書きとして、『ママのお願いにわたくしも加勢をいたします。ネの字』とあった。
スタールツェフはちょっと考えたが、その夕方になるとトゥールキン家へ馬車を走らせた。
「やあ、ようこそどうぞ!」とイヴァン・ペトローヴィチが眼だけで笑いながら彼を出迎えた。
「|ボンジュール《こんちわ》」
ヴェーラ・イオーシフォヴナは、めっきりもう年をとって髪も白くなっていたが、スタールツェフの手を握ると、
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