肥って、ずんぐりと横へ拡がれば拡がるほどますます情けなそうな溜息をつきながら、わが身の悲運をかこつのだった。馭者稼業に骨の髄までやられたのだ!
 スタールツェフは方々の家へ出入りして、ずいぶんいろんな人間にぶつかったが、その誰一人とも親しい交わりは結ばなかった。町の連中のおしゃべりを聞いたり、その人生観を聞かされたりすると、いやそれどころかその風采《ふうさい》を見ただけでさえ、彼はむしゃくしゃして来るのだった。経験を積むにつれて彼にもだんだん分かって来たことだが、こうした町の連中というものはカルタの相手にしたり、飲み食いの相手にしたりしているうちは温厚で、親切気があって、なかなかどうして馬鹿どころではないけれど、いったん彼らを相手に何か歯に合わぬ話、たとえば政治か学問の話をはじめたら最後、先方はたちまちぐいと詰まってしまうか、さもなければこっちが尻尾《しっぽ》を巻いて逃げ出すほかはないような、頭の悪いひねくれた哲学を振りまわしはじめるのだった。それどころか、スタールツェフが試しにさる自由主義的《リベラル》な市民をつかまえて、有難いことに人類はだんだん進歩して行くから、いずれそのうちに旅
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