の新鮮さ、眼や頬のあどけない表情によってであった。彼女のきものの着こなしまでが、その飾り気のなさや無邪気な雅趣によって、彼の眼には何かこう世の常ならぬ可憐《かれん》なもの、いじらしいものに映るのだった。しかも同時に、そんなあどけない様子でいながら、彼には彼女が年に似合わず非常に聡明《そうめい》な、頭の進んだ女性に見えた。彼女となら彼は文学の話、美術の話、その他なんの話でもできたし、また生活や人間のことで愚痴《ぐち》をこぼすこともできた。尤《もっと》も真面目な話の最中に彼女がいきなり突拍子もなく笑い出したり、家へ駈《か》け込んでしまったりするような場合もあったけれど。彼女はほとんどすべてのS市の娘たちと同様すこぶる読書家だった(一体がS市の人々は至って読書をしない方だったので、ここの図書館では、若い娘とユダヤの青年がいなかったら、図書館なんぞ閉鎖してもいいくらいだとさえ言っていた)。この読書好きな点もすこぶるもってスタールツェフの気に入って、彼は顔さえ見れば彼女に向かって、このごろは何を読んでおいでですかと胸躍らせながら尋ね、彼女がその話をしだすと、うっとりとなって聴きほれるのだった。

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