人間として眼覚めると同時に、国家が望むと否とに拘はらず、現在の政治を根本から疑ふ方向に向ふであらう。それを期待するものがあるかないかは、私が云はなくてもわかつてゐる。
 ところで、私自身は、制度の好みなどはない。制度に弊害は附きものだと思つてゐる。弊害救ふべからざるに至れば、自ら、打開の道が開けるであらう。それまでは、制度そのものよりも、弊害と戦ふべきであると信じてゐる。現制度の弊害の最も甚だしきものは、官尊民卑の風と、金力万能である。この間にも既に矛盾はあるが、その矛盾から、混濁した処世の法が生れ、民衆の清潔な愉楽が失はれるのである。道徳には何等の権威もなくなつてゐる。醜行は暗黙の裡に是認され、美挙は看板として役立つのみとなつてゐる。名士は祖先の墓参りをするだけで、涜職の罪滅しができるのである。
 これは、日本資本主義社会の珍奇な風景である。が、何主義の時代でも、こんな愚劣なヂエスチユアを嗤ふ国民がゐる筈である。
 母親が息子を殺した新聞記事が、天下を驚倒させたが、私は、人に意見を聞かれてかう答へた。
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「別に驚くことはないさ。日本ぐらゐ不心得な親の多い国はない
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