。愛するといふことが、そのために命をさへ捧げるといふことであるとしたら。
 われわれは、日本人と生れたからには、やはり、日本人のままでありたい。嘗ても云つた如く、それを恥だとも名誉だとも思はないが、ただ、それこそ運命であり、運命を運命として受け容れる気持である。私は、自分のためにも、また、自分の子孫や、自分の愛するもののために、日本が好い国になることを心から祈るものである。

 われわれは、何故に、既に日本が比類のない好い国である、と信じなければならないのか。好いところもあるであらうが、このままではいけないところが随分多いことを、自分の後継者たちに教へておきたく思ふ。祖国を愛するといふ精神は、どういふところから生れて来るのか、それは為政者などが考へてゐるやうに、自分の国が一番優れてゐるといふ観念からではないにきまつてゐる。正しく物を視るのがいけないと教へ込む法はないではないか? それが危険だと思ふなら、正しく視られて差支ないやうな国にすべきではないか? 私はやつぱり、どうにもならないことを云つてゐるのであらうか?
 国を憂ふるといふ言葉ほど、気恥しい言葉はないと思つてゐた私は、いま、さ
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