なることに変りはないのであります。
「大君のしこのみ楯」と勇んで出で立つたわれわれの兄弟、夫、父、親、息子たちは、いづれも、昨日までは、われわれと共にあつて、野良に出で、算盤をはじき、事務所に通つてゐたのであります。
 戦場に於ける彼等の心構へをわれわれが日常の心構へとすることはできないでありませうか? 私は、必ずしもこゝで、生と死との問題を論ずるつもりはありません。
 われわれの日常の御奉公は、立派に生きることであります。立派に生きるためには、先づ、何をおいても、存分に鍛へられなければなりません。仕事の上では、血のにじむやうな修業を積むことであります。そんな修業が今、何処で行はれてをりますか?
 次には、生活の上での、家庭の躾けをやり直さなければなりません。此の躾けは、徒らに旧い型を押しつけるのでなく、新時代の健全な生活感情を盛つた、闊達明朗な風俗を作り出す基礎たらしむべきであります。躾けは、つまり、あらゆる意味に於ける家庭的訓練であります。たゞ単に礼儀作法を教へるといふやうなことでなく、困苦欠乏に堪へる習慣をつけ、常に秩序に服するよろこびを知らせ、真の恩義と、真に美しい心とを感じ得
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