に備へ、これを有効に発揮し得るのは、ひとり軍隊のみだと信じます。なぜなら、そこには、職責遂行のために必要な精神と技術とを絶えず鍛へあげる純粋にしてかつ厳密な掟があるからであります。
玉磨かざれば光なしであります。
如何に立派な歴史を背負ひ、如何にすぐれた素質をもつた民族でも平和に慣れ、安逸をむさぼり、身心の鍛錬を怠つたならば、一朝事ある場合は勿論、長い間には、次第に、自立自衛の力を失ひ、その文化は頽廃し、いはゆる老朽国民に成り果てるのであります。日本民族は、いくたびかの試煉によつて、国家の基礎を益々固めては来ましたが、かの明治の建設期を経て大正に入る頃から、一種小成に安んずるといふやうな風潮が社会の一隅に頭をもたげて来ました。
西洋文明の軽薄な模倣が際限なく行はれました。
日本人の真の姿が少くとも表面的には、生活の近代化と共に消え失せようとしつゝあつたのであります。この間、黙々として、国防の重責に任じ、兵を練り、武器を整へ、近代戦への必勝態勢を備へてゐたわが陸海軍のみは、誠に陛下の股肱たるに応はしい国民中の国民であつたと申さなければなりません。しかしながら、われわれも亦、日本人
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