隣組長として
岸田國士
私は今度隣組長の役を買つて出た。買つて出たといふ意味は、別に選挙をされたわけでもなく、特にみんなから私にやれと強ひられた覚えもないが、最近の常会で、どうも私自身この役を引受けた方がいゝといふ気にふとなつたからである。(昼間、家でぶらぶらしてゐるのは私だけだといふ負け目もあつて)
かねて私は、今の政治が、当面の問題、殊に、戦争の経過につれて、どうしても急に解決しなければならぬ事柄の処置に没頭しがちで、国家百年の計を樹てるといふやうな点にあまり注意が向けられてゐず、為政者も、口では遠大な理想を説くけれども、実際政策の実行に当つては、云はば、目の前の仕事に追はれ、国民の指導と云つても、すぐに結果の現はれる要求のみを突きつける有様である。
もちろん、国民として、個々の国策に協力することは絶対に必要であるのみならず、それによつてこの戦ひを勝ち抜くといふ信念をあくまでも固く持してゐなければならぬが、私は、少くとも、国民の一人として、われわれの生活が、今日の指導者の指導に従つてゐるだけで、果して、日本人としての誇るべき生活にまで築きあげられるかどうか、大に疑ひをもつも
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