ふ約束をしておくと、その日の朝になつて、電話がかゝり――子供が急病だ。医者に一度見せて、大丈夫だと云つたら出掛けるが……と云ふことであつた。
 私は、子供の病気と聞いてひやりとしたが、また一方、やれやれと気がゆるむのを、無理に奮発して支度を整へ、早速彼の家をのぞきに行つた。取次に出た細君は、昨夜の看護疲れをみせながら、子供はやつと楽になつたらしいが、主人は、今朝早くから散歩に出ましてと、やゝ恐縮のていである。なるほど、徹夜をした朝は外の空気を吸いたくなるもので、その経験は私にもある。
「では、さういふお子さんのそばを長くはなれる場合ではありませんから、今度は、私一人で出かけます。何れまた、同道の機会を作りませう。」
といふわけで、そのまゝ上野へ駆けつけるつもりでゐたところ、予定の汽車に間に合ふかどうかあぶない。これに遅れると、信越線の準急は午後になる。軽井沢の奥まで行くのに日が暮れてはまづいから、赤羽まで時間をはかつて電車で行つた。これなら十分間に合ふことに気がついたのである。
 池袋の乗換はいゝが、赤羽でも、赤帽はゐず、長いプラツトフオームを重い鞄をさげて歩いた。大分ひまがかゝつた。
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