に、その掌で私の胸もとをきゆつきゆつと撫ではじめた。なるほど、瞬時にして垢がよれるので、私はをかしくなつた。胸から腹、股から臑へとこすりおろして行く。片脚を高く持ちあげて、尻のあたりに及ぶと、皮がひりひり痛む。しかし、到るところ、面白いくらゐくるくるとはがれおちるものが感じられる。ますます笑ひたくなるのを、こゝで笑つたら三助君がなんと思ふか、恐らく支那人にその意味は通じないであらうと気がつき、坂本氏をふり返つて、
「なかなか出ますよ」
と報告してごまかした。
表がすむと、今度は裏返しにされた。
脇の下から足の裏まで容赦なくやる。人間はくすぐつたいものだといふことを、彼等は知らぬと見える。恐らく、支那人の残虐さとはこんなところにあるのかも知れぬ。
しかし、この徹底的な「流し」のおかげで私は一生の垢を洗ひ落したやうな気分になり、日支三助比較論の意義を考へながら、一つ時、休憩室の寝台の上に寝そべつた。
「文弱」について
堀内氏の部屋で寝る用意をしながら、明日私は天津へ引つ返すといふ話をもちだすと、氏は幾分残念さうに、
「もう少し前へ出てごらんなさい」
と云つた。
「
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