ますと、坂本氏は先にたつて私を街に連れ出した。いくつかの横町を曲り、珍しく二階建ての映画館のやうな建物の狭い階段を登りきると、むつ[#「むつ」に傍点]と鼻をつく臭ひは、内地の銭湯のそれとあまり変らない。
さう思つて部屋の中を覗くと、共同風呂には、丸裸の日本男児が殺到してゐるのである。
坂本氏は見張りをしてゐる男に何やら交渉してゐる様子であつたが、やがて、われわれは貸切りの一室をあてがはれた。
そこは休憩室と浴場とに分れてゐて、二人分の設備がしてある。休憩室には寝台が二つ並べてあり、暇と相手があれば一日ぢゆうごろごろしてゐられる仕組になつてゐる。給仕が茶を運んで来る。
浴場の方は、殆ど西洋風呂と同じ形をした浴槽が二つあつて、別に風変りなところもないが、いよ/\三助君が「流し」を取りに来る段になると、私はまつたく面喰つた。
先づ浴槽の縁へ細長い板を渡し、それへタオルを敷いて、私を仰向けに寝かせるのである。文字通り俎上の魚である。三助君は典型的支那人の相貌を備へた、六尺豊かの大男だが、これが日本のやうに裸ではなく、たゞ両袖をまくりあげたのみで、どこをどうしようといふのか。彼は無造作
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