招き寄せた。
「なにしろ、明日出発命令が下るかも知れんのだからな。落ちついちやゐられないよ」
「うつかり洗濯もできないね」
と、私は暢気なことを云つた。やがて、飛行場の天幕に帰ると、そこへ、新しく交代した警備隊の隊長が打合せに来た。歩哨の地位を今迄と少し変へることなど相談をした後、
「それから、村落内に怪しい支那人が一名潜入してゐるらしいといふ報告を受けました。只今、巡察を二組派遣しておきましたが……」
「人間がゐるところは大丈夫だよ。それより、飛行機の方だな。まあ、よろしく頼みます」
あとで、私は、部落民の日本軍に対する感情はどうかと訊ねた。
「うん、場所によるね。大体穏かだが、なかには油断のならん奴がゐるよ」
「ある砲兵隊が舎営してゐる部落で、敗残兵だか匪賊だかの襲撃を受けたところがあるつてね。なんでも部落民のいくたりかゞ焚火をして合図をしたんだつていふぢやないか」
私は何処かで聞いた話を、逆に持ち出してみた。
「ふむ」
とSは別に気にもとめないらしい。
プロペラの唸りが、あちこちで聞える。機械の点検をしてゐるのであらう。ずらりと並んだ○○機の、やゝ仰向き加減に翼を張つて
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