を思ひ出した。東洋人の間では、さういふことは殆ど想像ができないのではないか。これはなかなか面白い問題である。
少し行くと炊事場である。
皮を剥いた豚が大きな調理台の上に寝てゐた。一方では、白菜を洗つてゐるものがある。
隊長は井戸をのぞき込んで、傍らの兵士に訊ねた。
「水はいゝか?」
「はあ、まづいゝ方であります」
「どら、汲んでみろ」
釣瓶代りのバケツに汲みあげられた水は、白く濁つてゐた。
「これでまづいゝ方かな」
Sは首をかしげた。
「ほつとくとだんだん澄んで来るんであります」
「それやさうだらうが、あんまり感心せんな」
私も感心しない。が、兵士は水の責任を自分が負ふ覚悟で黙つてゐた。
井戸の縁は地面とすれすれで、井戸側といふものがないらしく、外へ溜つた水が中へ逆流しさうである。
「こいつはなんとかならんか。汚いぞ」
Sの注意は至極尤もだが、これは、炊事係の下士も気がついてゐるとみえ、
「はあ、それに、いま、はめるものを作らせてをります」
敬礼! 一斉に靴の踵を揃へる音がした。
私は帽子を脱いだものかどうか?
それから、警備の状態をひと通り視廻り、Sは、自動車を
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