るほど話を聞けやわかるが、小説家なんて、そんなことまでするのかい」
「まあ、酔狂さ。しかし、戦争つていふものは現地でないとわからんね」
「うん、それやわからん。おれは、かうしてゐてもまだわからんやうな気がするよ」
「どうして? そんなことがあるものか」
「いや、まだまだ……」
と、彼は、意味深い笑ひ方をした。
それから、Sは私を傍らの副官に紹介し、同期生の噂に移り、支那の飛行機の問題を論じ、海軍の飛行技術と陸軍のそれとの本質的な区別を説き、
「さあ、昼だ。飯を食ひに行かう」
飯を何処へ食ひに行くのかと訊いたら、すぐそばの村落に、夜はちやんと舎営してゐるのだとわかつた。
護衛兵同乗の隊長用自動車で、部隊本部へ。そこはなるほど、民家を利用した立派な、立派とは云へないまでも小ざつぱりした宿舎である。
本部将校のための食堂もできてゐる。
当番の兵士は頗る美少年で、恭しく盆を捧げてお給仕をしてくれる。一汁一菜の野戦献立も、いくぶんは特別の吟味が施され、焚きたての麦飯は相変らずうまい。
「当分米が来ない形勢だつたもんだから、二三日前から節約を申渡したんだ。いや、腹いつぱい食ふなといふわ
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