至五百、なほ友軍の損害も少くないと思ひますが、不明であります。なほ、○○より○○に通ずる道路上に約一千の敵密集部隊を発見し、直ちに数回の爆撃を加へ、これを壊乱せしめました。その際、翼と操縦桿に四発の銃弾を受けましたが、人員に損傷なし。
帰途○○方面を迂廻し、友軍右翼前面の敵情を偵察しました。山岳地帯は非常に視界が狭く、低空飛行によつても、陣地の配備を明瞭に知ることができません。殆ど側面より射撃を受けつゝ○○の上空に達した時、○○部隊の一部らしき友軍の散開前進するのを見ました」
S部隊長の天幕の中である。
Sは卓子の上の地図をにらんでゐる。機上から飛び降りたばかりの若い飛行将校は、直立不動の姿勢で報告をしてゐる。
私は、その二人の表情を代る代る読みくらべて、生々しい偵察の記録を胸にたゝまうと努力した。
「やあ、ご苦労。おい、○○司令部を呼び出して……。××中尉、君、電話口へ出ろ」
Sは、ほつとしたやうに、ボタンを外した胸をそらし、年にしては早すぎる半白の頭へ片手をのせた。
「出てゐる飛行機が還つて来るまでは、気が揉めるつちやないよ。しかし、貴様、よくこんなところまで来たなあ。な
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