北京で桜井中佐の通訳をしてゐて、事変のはじめに戦死しましたな、あの男ですよ。僕は、そいつを川村の名で本にして出さうと思ひましたが、途中でこんなことになつたものだから、そのまゝで抛つてあります。ひとつ、お思召があつたら、それをなんとかして世に出して下さい。若し、いくらか金にでもなるやうでしたら、川村の遺族に送つてやつて下さればよろこぶでせう。原稿は北京にあります」
と云つて、アドレスを附け加へた。
みな相当に酔ひが廻つてゐる。従軍僧のA氏をつかまへて、「生臭坊主」と呼ぶものがあり、A氏は眼の縁を赤くして戦帽の庇を押しあげた。
やがて食事が終らうとする頃、堀内氏が帰つて来た。
新たな命令を受けて来たらしい。
隊員は、早くそれを知りたがつた。
が、彼は、先づ椅子を引き寄せて、静かに席に就いた。と、思ふと、いきなり、手袋をつかんで食卓の上に叩きつけた。
「××がやられた」
「××が……?」
一同は、眼をみはつた。
「△△も死に、また××もやられたとなつたら、あとはどうなるんだ。わしがゐないのがわるかつた。無茶をやりよつたに違ひない。惜しいことをした」
堀内氏は泣いてゐるのである
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