た。
「さうです」
「自分はやはり四十八にをりましたKであります」
 もちろん私とは時代が違ふらしいが、同じ聯隊の出身といふことは軍人同士にとつては格別なものなのである。
 H部隊長に敬意を表したいと思つたのは、私が嘗て巴里滞在中、国際聯盟の仕事でしばらく同じオフイスにゐたことがあるからである。ところが、生憎、今、会議の最中とあつて、私はT高級副官の室へ案内された。
 承徳の総攻撃が目下準備されつゝあること、娘子関方面の敵がなかなか頑強であることなど聞きかじつてゐたので、差支ない限り詳しい情報を得たいと思つたが、話はわきへ外れた。といふのは、所謂戦場ニユースに関する軍人としてのT氏の意見がなかなか面白く、時局ジヤーナリズムに対する適切な批判を含んでゐると思はれたので、私も図に乗つて、自分の考へを率直に述べた。
 会議はなかなか済みさうもない。
 私は、強ひて部隊長に会ふ必要はないのだが、われわれが幼年学校にゐる時分から、ウルトラ・秀才として殆ど伝統的な存在であつた「×期のH」の大部隊長ぶりをちよつと見ておきたかつたのである。
 しかし、こゝで時間を空費してはならぬ。
 私は、T氏に暇を
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