転車兵も通る。将校の往き来が目立つ。
○○機の一編隊が低空をかすめて南に飛ぶ。
街は沸き上り、燃え立つてゐる。
○○○司令部
私は、こゝでしばらく足跡を曖昧にせねばならぬ。○○部隊一行と袂を分つて、いよいよ単独行動を取ることにした。
その前に、今夜万一宿に困るやうだつたらといふので、堀内氏は、わざわざ、私に○○部隊本部の所在を教へておいてくれたのである。
道みち頭をなん度もさげ、埃をいやといふほどかぶり、全身汗になつて、私はやつと目的の場所に行きついた。
珍しく樹の茂つた村のなかである。そしてまた珍しくハイカラな洋館である。鉄柵を繞らした官庁風の構へも野戦軍の中枢に応はしい。
衛兵所の前を通つて、建物の正面に立つと、アーチ形の玄関を距てゝ、泉水のある中庭が見え、この庭を中心に、廊下を繞らした二階が四方からのぞいてゐる。
私は、左手の階段を上つて行つた。
突きあたりが副官室である。
名刺を差出して、H部隊長に取次を乞うた。
その名刺をぢつと見てゐた副官は、
「失礼ですが、四十八にをられた岸田さんぢやありませんか?」
と、馴れ馴れれしく椅子から起ち上つ
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