して、更に戦場としての名を高からしめる若干の条件を数へることができるやうに思ふ。
美しい塔が城壁の上に聳えてゐる。その昔日本の僧侶某がこゝで修業をしたといふ寺がある。さういふことをもつと詳しく知つてゐたらと思ふ。
正午、石家荘にはひる。
大きな駅である。しかも、全体に近代的な都市を思はせる設備がみられ、駅前の道路には、事務所風の西洋建築がたち並んでゐる。往き遇ふ兵士の数も多いが、こゝへ来ると、流石に第一線部隊の眼つきを感じさせる。
歩哨があちこちに立つてゐる。
この町には城壁といふものがない。駅から町の中心に通ずる道路を、われわれは急きたてられるやうにして歩いた。
鉄道線路の上の陸橋が、爆弾で半分飛んでしまつてゐる。危いぞと思ひながら、その上を渡つた。
メーン・ストリートである。おほかた平家ではあるが、相当の店が軒を並べてゐる。骨組は支那式で、飾窓や扉には洋風の趣を取り入れてあるのもある。店を開けてゐる家は至つて稀であるが、道端で煙草や果物を売つてゐる支那人は、どれもこれも、保定などと違つて、人ずれのした顔が多い。ひつきりなしにトラツクが通る。徒歩部隊も通る。伝令らしい自
前へ
次へ
全148ページ中64ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング